材料の強度と破壊>骨付き膝蓋腱

骨付き膝蓋腱の脛骨側初期固定強度について
     The Strength of Bone­Patella Tendon­Bone Craft in All­Inside ACL Reconstraction.
 
                              八戸工業大学 小山信次

 In all­inside ACL reconstruction using bone­patella tendon­bone (BPTB) graft, the tibial bone plug is fixed into the bone tunnel with an interference screw after proximally flipped onto patella tendon in order that the length of BPTB graft is corresponded to that of original ACL. However the effect of flipping the bone plug on fixation strength is unkown. In this study we assessed the differences of fixation strength depending on flip technique using porcine knees and tensile testing was carried out. We concluded that obversely flipping is better than reversely flipping in all­inside ACL reconstruction
 
Key words:anterior cruciate ligament, all­inside ACL reconstruction, BPTB graft flip technique,
        tensile testing
 
1.はじめに
 スポーツなどで強度以上の荷重が靱帯に作用し、靱帯が断裂したとき(Fig.1(a))、再建手術を行う.従来、骨付き膝蓋靱帯(BTB)の脛骨側固定方法として、関節外から骨孔を作成し、骨片を固定するendoscopic法(Fig.1(c))が用いられてきたが、最近、骨トンネルの拡大への対策と再建靱帯を本来の前十字靱帯(ACL)の解剖学的長さに一致させるため、関接内から骨孔を作成し、関接内から骨片を固定するAll-Inside ACL Reconstruction(Fig.1(b))が臨床的に応用されるようになった.
 この方法では、ACLの長さに一致させるため、脛骨側の骨片を翻転するが、翻転したbone plugと靱帯の移行部で、非生理学的な方向の力が作用し強度が変化することが予想される.また、従来の方法は、再建靱帯の軸方向と骨孔の軸方向が一致するが、この方法においては、ある角度を有することから力学的に影響をおよぼすことが考えられる.
 ここでは、脛骨側BPの翻転が骨付き膝蓋腱の脛骨側初期固定強度におよぼす影響を明らかにするための基礎的研究として、新鮮な食肉用若豚の膝関節を用い、異なる固定方法の試験片を準備し、引張試験により強度を調べ、実験的検討を行った.
            
(a)                 (b)                (c)
Fig.1 膝関節の概略図     
     (a).膝蓋腱の断裂          
     (b).All-Inside法による再建手術 
     (c).Endoscopic法による再建手術
              
2.供試材及び実験方法
 
2.1 供試材と試験片
 
 本実験に用いた供試材料は食肉用若豚の膝関節部にある中央部幅8mmの膝蓋腱である.膝蓋腱は、脛骨より直径13mm,長さ15mmの大きさの骨片(bone plug,BP)を残して切離した骨付き膝蓋腱(BTB)である(Fig.2).BTBを固定する脛骨は、関節面より65mmの位置で切断し、脛骨関節面に垂直に直径13mm,深さ15mmの骨トンネルを開けた.BTBの固定は、骨トンネルに BTBのbone plug部を挿入し、骨トンネルの壁面とbone plugの関に金属製のスクリュ−をねじ込むことによって行う.本実験では、BPの有無やスクリュ−刺入位置と方向を変え、また、スクリューの代わりに縫合糸を用いる等、下記に示すグループの試験片を準備した.
 
Group-A: BPは翻転せず、スクリュ−は関節外よりBPの海綿骨側に刺入し固定(Fig.3(a)).
Group-B: BPの腱付着部が膝蓋腱の後面に接するように翻転し、 スクリュ−はBPの海綿骨側に刺入し固定(Fig.3(b)).
Group-C: BPの海綿骨側が膝蓋腱に接するように翻転し,スクリュ−はBPの腱付着部側面に刺入し固定(Fig.3(c)).
Group-D: BPは翻転せず、BPに縫合糸を通し、脛骨に固定したスクリュ−で締結固定
    (Fig.3(d)).
Group-E: BPは翻転せず、スクリュ−はBPの海綿骨側に刺入し固定(Fig.3(e)).
Group-F: BPは翻転せず、スクリュ−はBPの腱付着部側面に刺入し固定(Fig.3(f)).
 
 
Fig.2 骨付き膝蓋腱
 
          
      (a).Group-A          (b).Group-B         (c).Group-C     
 
              
 (d).Group-D       (e).Group-E         (f).Group-F  
 
  Fig.3 骨付膝蓋腱の固定方法
 
 BPの翻転は骨トンネルにBPが合致するように整形を行い、BPの固定に使用するスクリューは直径7mm,長さ20mmのDepuy社製interference screw(M.CUROSAKATM FIXATION SCREW φ7×20mm)を用い、試験片Group-Dの固定には、ETHICON社製合成非吸収性縫合糸(ETHIBOND MX69G)を使用した.
 BTBの固定後、試験片掴み具で掴むため、膝蓋骨と脛骨をエポキシ樹脂で包埋固定し、この部分を試験片掴み部とした.試験片は製作後直ちに−80℃で冷凍保存し,引張試験の前日から4℃で解凍した.
 
2.2引張試験
 
 正常な膝関節における靱帯の頸骨軸、膝蓋骨軸との位置関係はFig.1の概略図の関係にあり、膝関節の屈曲角度によって、α=43〜20゚の範囲で変化する.また、靱帯の付着部位置は、頸骨軸とは一致しないことから、靱帯に引張荷重を負荷する際、試験機掴み具には曲げ荷重が作用する.従って、Fig.4に示す試験片取り付け装置を設計・製作した.頸骨側の固定角度は0〜45゚度の範囲で可変であり、膝蓋骨側は、靱帯を試験機負荷方向と平行にするため,移動可能である.
 引張試験には、容量5kNのインストロン社製万能材料試験機を用い、試験片の取り付けは、膝蓋腱を負荷方向に平行にし、脛骨側を膝蓋腱に対し左回りに43゚傾けて行った.引張速度は、500 mm/minである.
 荷重、伸びデータは、16ビットのAD変換ボードを使用し、サンプリング速度100Hzでパソコンに取り込み,計測した.
 
        
Fig.4 試験片取り付け装置              Fig.5 荷重−伸び曲線,Group-F
 
3.結果および考察
3.1 引張試験
 実験で得られた荷重−伸び曲線をFig.5に示す.荷重−伸び曲線は、直線部があり、その後、破断に至るまでの間、不連続的な形状を示す場合が多く、局部的な破壊が進行していると思われる.この曲線から、最大荷重、最大荷重時のelongation、 linear load、stiffnessが得られる. linear loadは、フックの法則が成り立つ直線部の最大荷重から求め、stiffnessは、直線部の傾きから求めた.得られた結果をFig.6に示す.図より、いずれの値も、取り付け方法の種類に対して、同様な傾向を示す.最大荷重は、Group-Fの場合に最大値が得られ、翻転したGroup-B,Group-Cは、いずれも翻転しない場合より低い値を示している.
 
3.2 破断の様相
 
 引張試験後の試験片の破断部位を観察した.
 Group-Aの場合、脛骨あるいはBPの骨折によって破断が生じた(Fig.7,Fig.8).脛骨が骨折する場合は、骨トンネルの縁から脛骨の破断に導くき裂が観察された.き裂の方向は靱帯軸方向と骨トンネル軸方向を含む面に対して垂直な方向のものが多く、靱帯軸方向と骨トンネル軸方向と43゚の角度を有することから、靱帯と接する骨孔の壁面には、骨孔を広げるような圧縮荷重が作用した結果き裂が生じたと思われる.
  Group-Bの翻転した場合は、BPの腱繊維付着部における移行部での断裂により破断する(Fig.6).スクリューにより骨片は骨トンネルの壁面に固定されるが、翻転箇所の腱繊維は内側と外側では、曲率半径が異なるため、靱帯に作用する引張力は、腱繊維に均一に伝達されない.さらに、BPの腱繊維付着部では、非生理学的な方向の力が作用し、この力は、引き裂き型の荷重であり、他の場合に比べて強度低下を生ずる原因と思われる.
 一方、Group-Cの翻転した場合は,Group-Bと同様、BPの腱繊維付着部より移行部で断裂により破断するが、繊維付着部に作用する力は、生理学的な方向であり,Group-Bの場合より強度が得らたものと思われる.
 翻転の場合は、いずれも、翻転部の幾何学的形状から、靱帯断面の外側の腱繊維には大きな引張荷重が作用し、内側の腱繊維には小さな引張荷重が作用するような状態にあり、応力分布が存在し、強度が低下する原因の1つと思われる.
 Group-Dの場合は、いずれも縫合糸が破断後骨片の引き抜けが生じた.
 Group-Eの場合、破断形態は、脛骨骨折、骨片引き抜けなど種々なものを示した.
 Group-Fの翻転せず、BPの海面骨側にスクリューを刺入し固定した場合は、今回の実験において、最大強度が得られた.いずれも、破断は脛骨骨折であった.
 骨片を固定するスクリューの刺入位置であるが、BPの側面(Group-C,Group-F)の場合、膝蓋腱を圧迫することなく、また、骨トンネル壁面に骨片が2点支持されるので強度的には有利である.
 


Fig.6 実験より得られた機械的性質












Fig.7 骨トンネルより脛骨が骨折

Fig.8 骨片が骨折

Fig.9 腱移行部が断裂
             
 
4.むすび
 
  脛骨側BPの翻転が骨付き膝蓋腱の脛骨側初期固定強度におよぼす影響を明らかにするため、食肉用若豚の膝関節を用い、異なる固定方法の試験片を準備し、引張試験を行った結果,次のことがわかった.
 脛骨側bone plugを翻転した場合、翻転しない場合よりいずれも固定強度の低い値が得られた.
 bone plugを翻転する場合は、bone plugの海綿骨側が膝蓋腱に接するように翻転する方法がより高い強度が得られる.
 終わりに臨み、本研究を進めるに当たり、ご指導いただいた弘前大学医学部整形外科岡村良久教授,同じく同科、津田英一氏に深く感謝の意を表します.
 
参考文献
 
(1) 津田他7名,第23回日本臨床バイオメカニックス 学会抄録,(1996),189.
(2) 山本,笹田,整形外科バイオメカニクス入門,(1983), 南江堂
*この実験は、八戸工業大学エネルギー工学科、「骨付き膝蓋腱の頸骨側初期固定強度に関する実験的検討 」、田子勉、坪池和寛君の平成8年度卒業論文の一部です。
 
       

材料の強度と破壊>骨付き膝蓋腱