材料の強度と破壊>大腿骨固定金具の破損

         大腿骨固定金具の破損              【報告書】
             
                      八戸工業大学・工学部 小山 信次

 大腿骨を骨折したときに、大腿骨の中心部に金具(髄内釘)を入れて大腿骨を固定する。骨髄液の出入りができるように中空で、等間隔にスリットが加工されている。髄内釘は直径12mm,厚さ2mm,長さ400mm程度の大きさである(図1)。材質は体内に入るため特殊な材料で作られている。カタログでは明記されていなかったが,おそらくステンレス系の材料と考えられる。患者が髄内釘を挿入し、術後、生活しているうちに、髄内釘が破損した(図2)。いずれも,左側が破損箇所である。
 

図1 スリット部の形状と寸法

図2 破損した髄内釘


 
図3 き裂発生箇所
図3に示すように,き裂の発生はスリットの平行部とR部(半円状の部分)との境界部近傍からである。

図4 破面写真


図4 疲労破壊のストライエーション
 
  破面写真を図4に示す。左側の光沢部分はR部の底にあたる部分であり,左上部の平滑な破面に続き,縞模様の不連続成長帯が観察され,スリットの反対側の部分は凹凸の激しい延性破面を呈している。 従って,き裂発生箇所は図4に示す位置で,ここから疲労き裂が発生し,時計方向にき裂が進展し,破壊に至ったと考えられる。
 図4は平滑な部分の電子顕微鏡写真で,疲労特有の縞模様、ストライエーションである。
 
 破面観察の結果、歩行時の負荷により繰り返しの曲げ変形が加わり、スリット部の応力集中箇所から疲労き裂が発生し破断に至ったと推定された。この場合は、スリットのき裂発生部近傍が、アンダーカット気味で、応力集中が設計よりも大きくなっていたと思われる。
 
  * この報告書は病院の医師からの破損事故原因解析依頼によるものです。
 

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