材料の強度と破壊>大型トラックホイール取り付けボルトの破損事故解析

  大型トラックホイール取り付けボルトの破損事故解析  【報告書より抜粋】
 
                                               八戸工業大学・工学部 小山 信次
1.はじめに
 高速道路走行中の大型トラックのホイールが、ホイール取り付けボルトの破損により、対向車線に飛び込み、車に激突して人身事故が発生した。ホイール取り付けボルトには、地面からの反力、地面からの摩擦力、横滑り、旋回の際の遠心力など複雑な荷重が作用すると思われるが、走行中は常に主として繰り返しの回転曲げ荷重を受ける状態にある。

2.巨視的観察

 ホイール取り付けボルトの直径は25.4mmで図1に破損した取り付けボルトを示す。

図1 破損した取り付けボルト                 図2 ねじ底部から発生していた微視き裂
 
図2に示すように、破面に隣接するねじ底部から多数き裂が発生していた。ねじ底部に発生したき裂のうちの一つが主き裂に成長し、破壊に導いたと考えられる。

 破面解析の結果、き裂は、ねじ底部から多数発生し、このうちの一つが主き裂に成長し、疲労破壊した。
 図3は、破面写真で、疲労特有な不連続成長帯が観察される。なお、電子顕微鏡観察では、疲労特有の縞模様、ストライエーションが認められた。
 

図3 ボルトの破面写真
 
3.電子顕微鏡による観察

 図4は主き裂発生近傍の写真である。(a)ではネジ底近傍には多数の段差が放射状に拡がっており、ネジ底には多数の微視き裂が生じており、これらが連結して主き裂に成長したと思われる。(b)は拡大写真であるが、ネジ底に沿ってつぶれ面が存在し、繰り返し荷重により生じた事を示している。破面縁に平行にき裂も生じている。
(a) (b)
図4 主き裂発生近傍の写真
 
図5は図3の中間領域の写真である。疲労破壊のかなりの部分に粒界破壊が見られる。不明瞭であるが疲労特有の縞模様、ストライエーションも観察される。
(a) (b)
 
図5 破面中間領域
図6は図3のA領域の写真であるが、ストライエーションが観察された。
(a) (b)

図6 図3のA領域の疲労破面、ストライエーション
(a) 線状痕は不連続成長帯 (b) ディンプル

図7 最終破断部近傍
 
図7は最終破断部近傍の写真であるが、(a)の白い部分が最後の繰り返しで破断した延性破面である。(b)はこの部分の写真でディンプルが観察される。
 
4.まとめ
 
・破損状況、破面観察の結果から、かなり大きな繰り返し荷重(回転曲げ)によって疲労破壊したと思われる。
 
・破面附近のネジ底の応力集中部には多数の微視き裂が生じていた。
 
・粒界破壊がかなりの破面領域で見られ、材料の改良の余地があると思われる。
 
・この種の破損事故は、運転記録、貨物の重量などの記録が無く、破面の状況から判断するしかなく、原因の追及は難しい。
 
* この報告書は運送業者からの破損事故原因解析依頼によるものです。
    

材料の強度と破壊>大型トラックホイール取り付けボルトの破損事故解析